《W》
敷き詰められた、毛の長い赤い絨毯。柱には凝った細工が施され、いくつもの魔除けの銅像が鎮座している。極めつけは部屋のいたるところに散りばめられた黄金の数々だ。一国の王室とも見間違えるような様相を、この司教室は呈している。
その奥でスクリュー司教は、落ち着きなく今夜の儀式に使う道具をチェックしている。
この大聖堂において最高の地位であるスクリュー司教は、誰よりも金を愛していた。その肥えた体にも数多の金の装飾品が飾られており、それを愛でることが彼の生きがいとも言えた。
だが今日と言う日ばかりは、彼もそこまで気が回っていないようである。
一体どうしたというのだ……?
せわしない司教の様子を見ながら、トーマス神父は心の中で呟く。彼は司教から重大な話があると言われ、ここに来たのだった。話の内容は知らされていない。だが司教の様子と、そして今夜行われるという悪魔払いのことを考えれば、あまり良い話ではないように思える。
喉が渇き、トーマスは入室した時に出された、金のカップの水を飲む。
「トーマス君。君に重大な使命を与えよう」
手元の短剣――華美な装飾の施された儀礼用の物だ――をいじりながら、司教がやっと口を開く。
「知っての通り私達は今夜、重大な儀式に臨む。清き教えを広めるため。背徳の使徒を根絶するため。今夜の悪魔祓いは、何としても成功させなければならない」
「……」
司教が何を言いたいのか。トーマスは図りかね、沈黙で先を促す。
「君は選ばれたのですよトーマス君。さぁこれを見たまえ。ここに、君が今夜すべきことが記してあります」
「私の、すべきこと……?」
渡された紙に、トーマスは目を通す。
赤いインクでかかれたそれは、もったいぶった司教の言い方とは対照的に、ひどく短い一文だった。飾る言葉もない、簡素な内容。だがそれ故にトーマスは驚き、それはすぐに激昂へと変わる。
「これはどういうことですか、司教様!」
「言葉の通りです」
「ふざけないでいただきたい!」
投げ捨てた紙が金のカップを倒し、中の水を絨毯へぶち撒ける。
「お気に召しませんでしたか。君をさらなる高みへと誘う、よい役目だと思ったのですが……」
「理由は知りませんが、私は貴方達に与するつもりは毛頭ありません。失礼させて――」
びちゃ。ぬめりのある音と共に、まくしたてていた神父の言葉が途切れる。
「これは……ッ!?」
広がる絨毯よりもなお紅い、鮮血を滴らせながら神父が呻く。
「まさか、さっきの水に……」
「残念ながら、既に舞台は整っているのです。降りてもらっては困ります」
膝をついた神父を見下ろしながら、ほくそ笑むスクリュー。その後ろから、小さな影が音もなく現れ、口を開く。
「別に、こんな手間をかけなくもよかったと思うけど」
それは若い、少年の声だった。司教はその声に、振り返らずに応じる。
「見せしめですよこれは。私達の世界にはこういうパフォーマンスが必要なのです」
「ふぅん」
詰まらなそうに呟いて、少年は再び姿を消す。
後に残ったのは、吐血しながら悶え苦しむトーマスと、今夜のことに思いを馳せ、愉悦の笑みを浮かべるスクリューだけだった。
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