《X》
「――ご苦労様でした、カイン君」
寝床に帰ってきたカインを迎えたのは、スクリュー司教の労いの言葉だった。廃屋同然のこの教会に自分以外の人間がいるのを見たのは、随分久し振りだと少年は思う。
「司教様。僕に何か用かな」
爽やかな笑顔で応えるカイン。そこに、血の惨劇の中にいた痕跡などは微塵も感じられない。
「いえ。相変わらず見事なお手並みだと思いまして。お陰で助かります」
「何てことはないよ。彼らは救われた。僕はそれで満足なんだ」
言葉どおり満足そうに言いながら、ゆっくりと椅子に腰を下す。司教もその向かいに座る。建物自体は傾いていたが、内部はよく掃除されており、椅子にも塵一つない。彼の几帳面な性格がそのまま出ている、と司教は思う。
何もなければ、咎一つない好青年。人を愛し動物を愛し、慈愛溢れる心優しい青年。それがカインと云う名の人間だ。
だがその奥底に眠っているのは、誕生故の罪悪。その天性の素質は、彼を確かな「処刑人」へと育て上げた。
「実は、次のお仕事がありまして」
懐から紙を取り出し、カインへ手渡す。表情のない目で、カインはそこに走る文字を見る。
「スタールン……あの、大きな街のことかな? そこにいる領主、か……」
一つ一つの事柄を確認するように呟き、読み終わると綺麗に折りたたんで、ポケットの中へと忍ばせる。
「可哀想に……」
本心からそう呟き、少年は静かに席を立つ。
「夜が明けたら、ここを発ちます。なるべく早いほうがいいですよね」
「ええ。お疲れでしょうが、よろしくお願いしますよ」
慇懃に礼をして、司教は教会を後にする。
何時もの静寂を取り戻す、古びた建物。まだ夜であることを知らせるように、フクロウの鳴き声が遠くから聞こえてくる。
カインはふぅと一つ息をつくと、粗末な毛布を取り出して、ソファに横になった。夜明けが来るまで、少年は束の間の眠りに落ちる。フクロウの声は子守唄のように、何時までも闇の中で木霊していた。
BACK